この度、一橋病院の副院長・兼股関節センター長として着任しました渡邉実と申します。
私はこれまで2500例を超える股関節手術を主に昭和大学藤が丘病院で行ってまいりました。私の目指すものは、一人でも多くの患者様に笑顔を取り戻していただくように今まで培った技術を最大限発揮することであります。
人工股関節全置換術はもとより、人工関節ゆるみ、人工関節周囲骨折、感染に対する人工股関節再置換術、小児頚部骨折後の外傷性大腿骨頭壊死症に対するNavigation Systemを使用した大腿骨頭回転骨切り術、また大腿骨頭壊死症に関しては、私自身が考案した大腿骨球状内反回転骨切り術、臼蓋形成不全に関しては、棚形成術を行っております。昨今Computer-Assisted Surgery(CAS)を用いた手術が整形外科の中でも主流となりつつあります。
今まで感覚に頼っていた骨切り術において、より正確に骨切り線や骨移植部位を決定できるようになり、それとともに、術後の臨床成績も改善しております。 股関節に対しての悩みを聞かせていただけると嬉しいです。

対象疾患

  1. 変形性股関節症
  2. 大腿骨頭壊死症
  3. 人工股関節ゆるみ・感染・周囲骨折
  4. 小児大腿骨頸部骨折後の外傷性大腿骨頭壊死症
  5. ペルテス病
  6. 大腿骨頭滑り症

外来担当医表

午前渡邉
午後渡邉渡邉

医師紹介

副院長
股関節センター長

渡邉 実

わたなべ みのる

専門領域

股関節、人工関節、再置換術、骨切り術

主な経歴

昭和大学(2003年卒)

手術数

人工股関節全置換術:2100例 (2016年から)
人工股関節再置換術(K-T Plate IBG):130例 (2016年から)
大腿骨頭回転骨切り術:30例 (2021年から)
大腿骨球状内反回転骨切り術:45例 (2021年から)
棚形成術:35例 (2021年から)

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人工股関節全置換術

手術時間 30−40分
出血量 200cc
入院期間 4日から14日程度

人工股関節置換術の前外側アプローチは、股関節の前側から切開を行う手術法であり、筋肉を切開することなく手術を進めるため、リハビリ期間が短縮や術後疼痛の減少されており、入院期間は2週間以内が多いです。このアプローチを用いた手術時間はおよそ30-40分で、出血量は200cc程度です。術後2ヶ月もすれば、術前とは比較にならないほど良好な股関節となり、満足される方が多いです。しかし、手術ですので一定の確率で合併症は起こり得ます。

合併症

感染

手術時間の短縮とともに、感染することは少なくはなりましたが、ゼロではありません。歯科領域の感染巣の有無のチェック及び定期的なクリーニングは各自お願いいたします。

深部静脈血栓症

人工股関節置換術後の深部静脈血栓症の発生率は30%と言われております。小さいものであれば、何も症状は出ませんが、大きな血栓が浮遊し肺に詰まると致死的になることがあります。可及的早期にリハビリ、術直後は足関節の運動、深呼吸をすることを心がけてください。

脱臼

現在まで前外側アプローチを行った1200例中脱臼は1例(0.08%)のみであります。ただし高度の骨欠損を伴う症例や、セメントを使用しなければならないほど骨が弱い方は、後方アプローチという筋腱切離を伴う手術を行った際には、理学療法士の指示通り動作制限を、3ヶ月はしっかり守っていただく必要があります。 

骨折

前方アプローチを用いた人工股関節は、後方アプローチを用いた手技よりは骨折が起こりやすいと言われています。術前に骨の脆さが危惧される場合、後方アプローチにてセメントを使用し手術を行っております。

血管損傷

ごく稀ではありますが、高度の変形を伴う症例や、以前の股関節手術の既往のある方は十分に注意する必要があります。

高度変形例

コンピューターの進歩により、人工関節の手技が大きく簡易になり高度変形例であったとしても術中迷うことなくCup を正確に設置することができ、手術時間、手術侵襲が低減され、高度変形例においても両側手術が可能となりました。脚短縮が著しい場合、後方アプローチにて手術を行っております。

図6 術前 64歳男性
図7 術後 両側同日手術
手術時間 3時間30分 出血 980ml

術後6週退院時の歩容

臀筋内遊離短縮骨切り例

短縮骨切りを必要とする様な難易度の高いCrowe IV に対するTHAもCASを用いたTHAを行うことにより、安心して原臼蓋にCupを設置することが可能であり、両側同日に手術を行うことも可能。

図8 80歳女性
図9 両側同日手術
手術時間 4時間30分 出血量 867cc

術後3ヶ月 退院時歩容

人工股関節再置換術

手術時間 症例により大きく異なりますが1.5時間〜5時間
出血量 症例により異なる
入院期間 6週間

人工股関節ゆるみ

従来型のポリエチレンを使用した(2000年以前)人工股関節で20年から30年経過した症例では、時として、人工関節の周りで広範に骨欠損が起こっている場合があります。
その様な症例では、施設内Bone Bankにより作成した骨を骨欠損部に補填しK-T法やIBG法により再建を行っております。今まで130例ほど行ってまいりました。 

K-T 法 骨欠損が広範な場合

実例

図1 術前 65歳女性 初回THA後44年
臼蓋及び大腿骨側に 広範な骨欠損を認める
図2 術前CT  CT上も広範な骨欠損
図3 術後 手術時間 4時間20分
出血量 780ml
図4 術前 全下肢
図5 術後 全下肢
術前にあった脚長差も改善した

術後1週間での歩容 術後3週で退院となった

IBG法 骨欠損が中等度、もしくは大腿骨側

実例

図10 77歳女性 MOM-THA
術後5年 Cup周囲に緩みを認める
図11  術後 手術時間 3時間10分
出血810ml
図12 術後3年 移植骨は同化している
現在も卓球を世界大会level で楽しんでいる

人工股関節周囲感染

人工関節の合併症でも述べましたように、人工関節は感染することがあります。
人工関節周囲感染に関しては2期的に手術を行っております。 
一度感染した人工関節を抜去し、セメントモールドという抗菌薬入りのセメントを留置し感染を鎮静化した後(約2ヶ月後)再建いたします。その間、車椅子乗車は可能ですが、荷重は許可できませんので通常入院が長期に及びます。最も経過がいい方で、2ヶ月半の入院を要します。

実例

図13 他院(北海道)にて人工関節
家族の希望にて受診 70歳男性
図14 CT 感染により
Bone-Cement間で 広範な緩みを認める
図15 人工関節抜去 セメントスペーサー
留置 2ヶ月後感染は制御できた
図16 臼蓋は広範に欠損しており
KT 、大腿骨側はIBGを行った。
手術時間 3時間、出血 642ml

再建後術後3週退院時の歩容

人工股関節周囲骨折

人工関節の施行件数の増加及び、高齢化により人工関節周囲骨折が増加しています。
どの様な骨折かにもよりますが、もともと歩行が可能であった患者様には、可及的早期の荷重歩行を目指し、再置換術を行っております。 

図17 86歳女性 1983年初回THA
2008年 revision
2024年 転倒受傷
図18 再置換術
手術時間 2時間7分 出血量230ml

術後2ヶ月 退院時歩容 T字杖1本にて退院

大腿骨頭回転骨切り術

手術時間 100分
出血量 250cc
入院期間 片側6週 両側2ヶ月

大腿骨頭回転骨切り術は難易度が高い手技であり、私は特に小児における大腿骨頸部骨折後の骨頭壊死に対し行なっております。
現在ではStryker社製のCT Baced Navigationを用い、股関節を三次元的に捉えることが可能となり、骨切り線の決定が用意となりました。それとともに手術時間の短縮、臨床成績も向上しスポーツに復帰可能な患児も多く経験しております。 小児大腿骨頸部骨折後の骨頭壊死は壊死範囲が広く、通常保存療法では早期に圧壊が起こってまいります。可及的早期に壊死部を荷重部より移動させることが必要だと考えています。

症例1 15歳 男性 自転車事故にて受傷 D-C IV

図19 受傷時 CT
図20 大腿骨頭の圧壊を認める
図21 高度後方回転骨切り術
手術時間 89分 出血量 400cc
図22 術後1年 抜釘後

術後1年 ロードバイク復帰

症例2 15歳 男性 自転車交通事故 D-C II

図23 受傷時
図24 圧壊時
図25 高度後方回転骨切り術
手術時間 120分 出血量 750ml
図26 術後1年

術後1年 バレーボール復帰

症例3 10歳 女児 遊具より転落 D-C II

図27 受傷時
図28 圧壊時
図29 高度後方回転骨切り術
手術時間 145分 出血量 300ml
図30 術後1年

術後1年 陸上復帰

両側同日大腿骨骨切り術

大腿骨頭壊死症、特にステロイド性の患者は両側性であることが多く、骨切り術を選択した場合、青壮年の働き盛りの方には長期入院期間や退院後の安静期間が長く、適応にはなりにくかった。Navigation の導入とともに手術侵襲の減少、により両側同日に手術可能となった。現在まで14人の患者様に手術を行なってきましたが、デスクワークの方であれば、術後3−4ヶ月で仕事復帰可能です。仕事内容により、人工関節をお勧めすることもあります。

Bilateral same-day transtrochanteric rotational osteotomy using computed tomography-based navigation: a case report

この論文の中に軟部展開を含め詳細にNaviを用いた回転骨切り術について記載してあります。

大腿骨球状内反回転骨切り術

手術時間 90分
出血量 200CC
片側・両側 6週

大腿骨頭壊死症に対する骨温存手術術式として、大腿骨頭回転骨切り術と弯曲内反骨切り術がありますが、手術の難易度、手術時間、その後の経過において、適応さえあれば、弯曲内反骨切り術の方が優れていると言われています。  そこでNavigation を使用し、大腿骨を田川ノミにて球状に骨切し、内反とともに前方回転を行う手技を2020年に開発し、大腿骨球状内反回転骨切り術 Spherical Varus Rotational Osteotomy(SVRO)として積極的に行っております。

Spherical Varus Rotational Osteotomy(SVRO)

Spherical varus rotational osteotomy of the femur using a navigation system as extra-articular surgery for extensive osteonecrosis of femoral head: a case control study

症例1 15歳 男児 大腿骨頭骨折 都道府県新体操強化選手

図31 術前 レントゲン正面
図32 術前 レントゲン45度屈曲位

術前CT 骨頭の前方に骨折を認める

図33 SVRO 手術時間 90分 出血量 200ml
図34  術後1年

術後1年3ヶ月 競技復帰第1戦

棚形成術

手術時間 片側2時間 両側4時間半 
出血量 片側で100cc程度
入院期間 片側 4週 両側6週〜8週

臼蓋形成不全の患者様に対し、45歳未満の方が対象となります。 
通常の保存療法、リハビリが無効であり、股関節の加療に時間を取れる方。
臼蓋形成不全に対し様々な骨温存手術がありますが、当院では、侵襲が少なく、骨温存破綻後の治療の際にも人工関節自体の難易度を極力高めない手術を施行しております、棚形成術は腸骨という骨盤から骨を採取し、臼蓋外側に骨溝を作成し、差し込むだけの単純な手術ではあります。こちらもNavigation system を使用し手術を行い。移植骨の高さだけでなく、打ち込み角度、また前後の移植位置、骨片の前方の被りなど三次元的に正確に設置できるようになりました。それにより現在のところNavigation  systemを用いた棚形成術を35例行っておりますが、術前の疼痛が術後1年で84.4%の改善を認めています。     

実例

図35 術前 28歳女性
図36 術後
図37 術後3年 AHIの改善 VAS 0mm JHEQ 84点