基本的人権はもとより“理念、基本方針”“患者の権利、責務”等に基づき、すべての職員が臨床における様々な問題に対応し、患者さんにとって最も望ましい医療を適切かつ十分に提供することを目的として、臨床における倫理に関する方針を定めます。

Ⅰ.基本原則

  1. 患者さんにとって最善の利益を優先する最良の医療を行います。
  2. 患者さんの意思、人権を尊重します。
  3. 患者さんの立場に立ち、良好な信頼関係を築きます。
  4. 患者さんに情報を提供し、十分な説明を行います。
  5. 個人情報やプライバシーを保護し、職務上の守秘義務を順守します。
  6. 現場では解決困難な臨床上の倫理的課題は、“倫理委員会”“幹部会”等で検討し、最善の方針を決定します。

Ⅱ.具体的な倫理的課題へ対応方針

  • 意識不明、自己判断不能患者さんに対する対応
  • 検査、治療、入院拒否、指示不履行について
  • 輸血拒否患者さんへの対応
  • 身体拘束について
  • 虐待への対応
  • 終末期を迎えた患者さんへの対応
  • 心肺蘇生不要(DNAR)の指示について
  • 退院の拒否および強制退院について

意識不明・自己判断不能の患者のための意思決定

認知症や精神疾患などについては、可能な限り患者さんへの説明を行いますが、意思決定が困難と判断した場合や、意識障害などで意思決定ができない場合があります。
意識不明や判断能力のない患者さんにおいては、家族など適切な代理人の同意を得て治療に必要な判断と決定を行います。家族等が患者さんの意思を推定できない場合には、患者さんにとって何が最善であるかについて、患者さんに代わる者として、家族等と十分に話し合い、患者さんにとっての最善の方針をとることを基本とします。
適切な代理人がいない場合、生命にかかわる緊急事態で家族等の関係者に連絡つかない場合は、患者さんにとっての最善の方針をとることを基本として、多職種による医療、ケアチームが話し合い判断します。

検査、治療、入院拒否、指示不履行について

検査、治療、入院等の必要性、利益と実施しない場合の負担、不利益について、患者さんに十分な説明を行った上で、望まない医療行為を患者さんが拒否できる権利を認めます。
ただし、感染症法に基づき、医療行為の拒否は制限される場合があります。

輸血拒否患者への対応

宗教上の理由などから輸血を拒否する患者さんには、“宗教的輸血拒否患者に係るガイドライン”に沿って対応します。
*輸血マニュアルに規定(当院)

身体拘束について

“身体拘束は人間の尊厳に関わる重大な問題である”と同時に身体的、精神的、社会的弊害をもたらします。身体拘束の必要性があると判断された場合であっても、身体拘束以外の緩やかな手段が考えられれば、それを選択するよう努めます。しかし、同意書の有無にかかわらず、緊急時やむを得ない場合の対応としては、以下の3つの条件を満たすことを確認します。

①切 迫 性 : 患者さん本人、または他の患者さん等の生命や身体が危険にさらされる可能性がある場合
②非代償性 : 他に代わる手段がない場合
③一 時 性 : 必要なくなれば速やかに解除

虐待への対応

小児、高齢者、障がい者への虐待が疑われた場合には、当院の“虐待対応マニュアル”に従って対応します。

終末期を迎えた患者さんへの対応

終末期とは

  • 医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復ができないと判断している。
  • 患者さんが意識や判断を失った場合を除き、患者さん、家族、医師、看護師等の関係者が納得している。
  • 患者さん、家族、医師、看護師等の関係者が死を予測し対応を考えている。

以上の、3つの条件を満たす場合を言います。

  1. 医師等の医療従事者から、適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて患者さんが多専門職種の医療従事者と十分な話し合いを行い、患者さん本人による決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが重要な原則である。
  2. 人生の最終段階における医療・ケア行為について、医療・ケア行為の開始、不開始、医療内容の変更、医療行為中止等は、医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に、慎重に判断すべきである。
  3. 医療・ケアチームにより可能な限り疼痛やその他不快な症状を十分に緩和し、患者さん、家族の精神的、社会的な援助も含めた総合的な医療およびケアを行うことが必要である。

医療については、厚生労働省の“人生の最終段階における医療決定プロセスに関するガイドライン”を参考にして行います。積極的安楽死や自殺幇助行為は行いません。

心肺蘇生不要(DNAR)の指示について

DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)とは、疾病末期において、救命の可能性がない患者さんの心肺停止時に心肺蘇生術(CRP:Cardio Pulmonary Resuscitation)を試みないという、医師から出される事前指示のことです。
心肺蘇生の有効性と予測される結果や合併症について患者さんや家族、代理判断者に十分に説明し、理解と合意を得ることを前提とします。
その上で、以下の原則に則り判断します。

  1. 患者さんが意思表示できる間に、蘇生に対する希望を確認し、それを尊重する。
  2. 患者さんの意思を確認できない場合で、家族が患者さんの意思を推定できる場合は、その推定意思を尊重し、患者さんにとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
  3. 家族が患者さんの意思を推定できない場合には、患者さんにとって何が最善であるかについて家族と十分に話し合い、患者さんにとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
  4. 家族がいない場合および家族が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、患者さんにとって最善の治療方針をとることを基本とする。

退院の拒否および強制退院について

一般に医師が入院治療を必要としない診断を行い、診断に基づき、患者さんに対して退院すべき旨の意思表示があった時は、特段の理由が認められない限り、入院診療契約は終了すると考えられているので、医師は退院を拒否する患者さんおよび家族に対しても退院の方針を説明します。
なお、患者さんの問題行動が、病院の秩序に著しく支障を及ぼすと考えられる場合や威力業務妨害や脅迫、暴行など犯罪行為に関係すると思われる場合は、診療を拒否しうる正当な理由になると考えられ、強制退院を勧告することができます。

2024.9. 作成